ストーリー
ドラマの舞台は、大津の下町にある小さな菓子屋春秋庵。主人公はそこで働く十九歳の恵子。彼女は気立ての良い明るい優しい性格の女の子だ。そんな彼女がある日、商いについて書かれた一編の詩に出会う。
「小さな店であることを/恥じることはないよ/その小さなあなたの店に/人の心の美しさを一杯に満たそうよ」と作者は語りかける。何げなくお店で働いていた彼女は、その言葉一つひとつに深く感動する。自分の考え方ひとつで、商いの世界が二つに分かれる。今までの売ろう・買ってもらおうという考え方を捨てて、子供にもお年寄りにも素直な心で接して、お客様に喜んでもらおうという気持ちで一杯になる。
恵子に恋心を抱く大企業のエリート社員中川は、「そんな考え方は時代にあわない自己満足に過ぎない。情緒的な商いではなく、資本力と組織力を背景にした合理的なセールスをしなければだめだ」と忠告する。だが、店長の加山は、先の詩を実践するような商いこそ本当の商いであり、店の繁盛もそこから生まれると一歩も引かない。店長は彼女を励まし、温かく見守るのだった。 そんなある夜、店を閉めた後に飛び込んで来た客がいた。母親が危篤なのだが、最後に春秋庵のお菓子がどうしても食べたいと言っているのでこんなに遅くにやって来たという。
驚いた恵子は、精一杯のことをしてあげようと心に決めた。
そして、この出来事が彼女に忘れられない思い出をもたらすのだった。
〈カラー90分〉